何も聞こえない。何も見えやしない。二本の足で立つのがやっとで、何かに縋ろうと手をのばすけれど、空振りした手は空を切る。立っているのか浮いているのかわからなくなる。
やがて金星がひかって、そこにずっとあった はずのひかりをみる。薄い雲が空にかかっているその先にうっすら弱くひかる星。なにもない空を指さし、そこにひかっているほしをみる。遥か彼方で死んでいった星の子ども、本当はこの世に生まれる前に出会っていた。わたしはたいせつなことを一つずつ忘れていった。ちゃんと忘れていった。
みんなの話す言葉の意味を、大きなプールから探している。水中、膜のかかったみんなの声がぼんやり聞こえる。わたしは泳ぎつかれて、それでもまだあの子の「すき」を探している。空には丸く穴が空き、わたしのことを見下ろしている。わたしは走り続ける、誰も追いつけないスピードで街と人を通り抜けて 誰の思い出にもならない。