2021.07 

何も聞こえない。何も見えやしない。二本の足で立つのがやっとで、何かに縋ろうと手をのばすけれど、空振りした手は空を切る。立っているのか浮いているのかわからなくなる。

やがて金星がひかって、そこにずっとあった はずのひかりをみる。薄い雲が空にかかっているその先にうっすら弱くひかる星。なにもない空を指さし、そこにひかっているほしをみる。遥か彼方で死んでいった星の子ども、本当はこの世に生まれる前に出会っていた。わたしはたいせつなことを一つずつ忘れていった。ちゃんと忘れていった。

みんなの話す言葉の意味を、大きなプールから探している。水中、膜のかかったみんなの声がぼんやり聞こえる。わたしは泳ぎつかれて、それでもまだあの子の「すき」を探している。空には丸く穴が空き、わたしのことを見下ろしている。わたしは走り続ける、誰も追いつけないスピードで街と人を通り抜けて 誰の思い出にもならない。

 

目を覚ませ

目を覚ませ、喪失で人は殺せない。だから呪いをかける必要も本当はない。愛なんてものはとうに力を失ってリサイクルボックスの中、次に何かに変わるのを待っている。かたちを変えながら循環している。みんな正体に気が付かず、ただ消費して愛を探し求めるけど、今朝の目玉焼きがそうだったと誰が気づける。わたしは呪いの解き方がわからない、誰も知らないかもしれない。でもこんなに身体は軽い、わたしの歪で完全なタマシイを掌であたためている。