お気に入りのタイツのつま先から、親指が覗いている。煙草を落として焦げついた絨毯、繊維が溶け固まってしまった痕、音のない部屋。自分の中に入ってきてほしくない言葉、匂い、音に眉をひそめる。全身の穴を塞いでしまいたい。そういう時は、頭まですっぽりと布団に潜り込む。

台風が過ぎ去った後に増水した川を見に行く。過ぎ去ってしまった後の空は、何もなかったかのように晴れ晴れしている。風はまだ吹いているけれど、荒々しさはなくって、無邪気に土手に生える草木を揺らしているのが、戯れているみたいに愛らしい。川は増水して轟轟と流れる。飛ばされてきたゴミや枝が右から左に流れていって、わたしは音を立てて激しく流れる川と何もなかったかのような空を交互に見る。嫌なことがあった日の朝焼けがむかつくくらいに美しかったり、悲しくて苦しくてもしっかりお腹が空いてしまったりすることを思い出す。わたしの中のわたしの力が及ばない部分、わたしたちのわたしたちの力が及ばない日々の、やるせなさ、くやしさ。

わたしは明日、お気に入りのタイツの指先を、慣れない手つきで縫い付ける。