終電を見送ってしまえば、どこにも行くことはできないし、眠気と疲労と酔いでどうにかなりそうな身体を朝までずるずる引きずる。電車の走り出した音が、有明の月が浮かぶ新宿に人の気配と一緒にやってきて、まだやり残したことがあるような気がする私は、人の流れに逆行する。ここはどこで、なにをしているのか、わからない。ここはここで、わたしはわたしで、それでいて何か問題があっただろうか。

喫茶店を2軒ハシゴする時とはどんな時だろうか?新宿駅東南口を降りてタイムスでブレンドを飲んだ後、3丁目のジャズ喫茶で水出し珈琲を飲んだ。腹が珈琲でタプタプになっている。よく行く飲み屋で見かけたことのある人が、マッチで煙草に火を点けた。向こうはこちらのことなど知らないと思う。右利きなのに煙草を吸うときだけ左手を遣う人、靴の底が内側だけすり減っていること、金髪が似合う女の子にタトゥーが増えたこと、きっちり折りたたまれたハンカチが左ポケットからはみ出している、誰にでもすきをあげるあの子が私のことも好きなこと。わたしは誰のことも知らないまま

電車に乗り合わせている人たちは、いつも途中の表情を浮かべて、どこかに向かっている。道草の途中で拾った石ころの裏側に、マジックでかかれた名前。なんだかわたしみだいだなって、笑ってしまった。

さて、帰ろうか

狂ってしまえればよかった。そうすればこんなに悩むこともなかった。わたし まともだから、過ぎていった日々のこととか、やがてくる未来について頭を悩ませている。狂ってしまえればよかった。そうしたら、このどろどろした欲に嫌悪抱くことなく身を任せられるのに。小さな傷に剃刀を突き立てて傷を広げる 滲む血 歪んだ顔のこいつは誰ですか。いっそのこと全部壊してやろうと思ったりする。そうすれば全部ぐちゃぐちゃになって取返しがつかなくなって、わたしの力は及ばなくなって、もう全部手放すしかなくなるのだから。狂ってしまいたい、全てを台無しにして、二日酔いの朝のあのどうしようもなく気持ち悪い感じとおんなじにして、1日ではなく未来を全部台無しにしちゃう。そしたら、なんて気持ちのいい朝が来るんだろうって思うよ。人を傷つけても平気なふりをして、自分に向けたナイフで迷わず腹を裂く。まともではなかったとしても、狂いきれないわたしの部分 腐っていく前に、はやく